2003-12-17

PowerPoint Makes You Dumb

話題は xml-dev より.

Microsoft の PowerPoint がスペースシャトル "Columbia" 炎上の一因になっかもしれない. 事故調査委員会のレポートがそう示唆したのは, しばらく前のことだった. (と昨日知った.) 妨熱タイルの強度に関する問題をまとめたスライドが非常に confusing であったために意思決定を行うエライ人がその事実を見落としたという話. レポートは公開されているから, 試しにダウンロードしてみる. Volume I がそれ. "powerpoint" と検索すると, 191 ページがそれらしい. "Enginieering Viewgraphs" というこの記事では問題のスライドを示し, 重要な問題を隠してしまったスライド作りの下手さを批判する. "Board was surprised to receive similar presentation slides from NASA officials in place of technical reports." だそうな.

さて, NYTimes の最近の記事 がこの問題を蒸し返し, xml-dev はそれで盛り上がった. この記事では先の批判を更に拡大, "そもそも PowerPoint なんて使っていたらロクなスライドは作れない" という. 論拠となるのは "The Cognitive Style of Power Point" なるエッセイ. (とりあえず注文したけど届くのは先だなあ... Sotto Voce という weblog に紹介があった. 参照.)

xml-dev でのそもそもの投稿はこの "cognitive style" に着目したもので, 道具が使い手の思考に影響をあたえるか, という問題提起だった. 具体的には "XML やその他のツールにとっての cognitive style とは何か", つまり XML を書くことは私達の物の考え方にどんな影響を与えるかというもの. なかなか無茶な話題の振り方をする. XML は UI を持ったツールではなくて単なるファイルフォーマットなのだから, powerpoint と比べるなんてナンセンスに思える.

議論は 1. 具体的に XML をどう物書きやプレゼン資料の準備に使うかという本来の話題と, なぜか 2. どんなプレゼンが良いプレゼンかという議論にわかれていく. まず後者の議論を追おう.

The best speakers I have seen use slides like singers

use pianos; they don't play the melody.

はじめに "bullet list" の良し悪しが議論の中心となる. いわゆる箇条書き. powerpoint は利用者が箇条書きを使いたくなるような作りになっている. しかし箇条書きを使いすぎたスライドはつまらない. ださい. 良いスライドは図を多様する. 表やデモもおりまぜる. スライドは自分のスピーチを補うもので, 単なる要約を書くだけのスライドはイモだ. などと xml-dev folks は意気投合. 先の引用はそんな雰囲気を端的にあらわしている. 彼らの多くはプレゼン慣れしたコンサルタントであるようすだ.

プレゼン話はもういいや... そこで関連記事を追ってみる. "The Cognitive Style of Power Point" の著者 Edward Tufte が powerpoint を批判したのはこれがはじめてではない. "PowerPoint Is Evil" という記事を WIRED に寄稿している.

At a minimum, a presentation format should do no harm.

Yet the PowerPoint style routinely disrupts, dominates,

and trivializes content. Thus PowerPoint presentations

too often resemble a school play -very loud, very slow, and very simple.

どうやらこれは "The Cognitive..." のサマリと考えてよさそうだ. 1 枚あたり 40 語しか収まらないスライド, Excel を駆使して派手に飾りたてた表を批判し, PowerPoint はぼんやり使うとクリエイティビティが阻害され, つまらないスライドを量産してしまう. これは単なる道具だと肝に命じて, よく考え聴衆に訴えるスライドを作ろうと主張する. この記事を引用した weblog article "Is PowerPoint Evil?" では, 具体的なスライド作成ガイドランまで示してくれる. みなさん良いスライドを作りましょう, そんな意気を感じる記事.

これらの議論はどれも暗黙の了解をもっている: 自分は, どうしても伝えたいことがあってプレゼンをするのだ, という前提. "すごいでしょ!" と自慢したいことがあり, その思いを漏らさず伝えたい. プレゼンについて一言ある彼らにとってみれば, これは当り前の事なんだろう. しかし PowerPoint のシェアを支えているユーザは, 実際のところそんなに主張があるのだろうか. 私はかなり疑わしいと思う. 大して主張できる成果のない研究発表, 何が良いのかよくわからない自社製品のアピール, 都合の悪い実験結果, 統計. そういう disappointed で boring なあれこれを胡麻化すために, powerpoint は多く使われているのではないか. 実際そういう用途には非常に有効なはずだ. 派手なアニメーションやグラフィクス, 詳細を伏せた bullet-list. powerpoint の達人が用意したテンポよく展開する虚構を見抜くのは案外難しい. Columbia のテストを報告したエンジニアもの件も, スライド下手ではなく職業倫理の問題だったかもしれない. powerpoint は creativity を高めるツールではない. むしろそれを捏造することに威力を発揮するツールだ. そういう立場でないと, この slideware は Tufte の言うとおりの単なるアホ化ツールにしか見えない.

ツールは進化する. bullet-list が時代遅れになる頃にはまた目新しいテクノロジが用意されるだろう. 常にクリエイティブではなく時に誠実でもない私達は, 自分の成果を最大限にアピールしながら所々で煙幕を張るだろう. 上司や顧客はそれに騙されたり, 眼力を鍛えて手厳しいつっこみをしたり, あるいは狸寝入りをして私達を弄ぶだろう. そして物語は, ではなく, いたちごっこは続く.

付録: 関連のあるかもしれないページ