2005-02-12

近況

すべてのボーナスはツンドク・ホンの山に消えた.

最近読んだ本 : 確率論的発想法 (小島寛之)

パチンコ屋の客からうけた "リーチがかかったらレバーを叩くといいのよ" というアドバイスについて

理系の教育を長いこと受けてきた筆者には, これらは実に珍妙な理屈に見えました. けれども経済学者になった今は, 彼らのこの戦略を一概に笑い飛ばすこともできないと考えています. 主観的オッズは, それがどこからやってこようと, 一種の不確実性モデルであるからです. そのような見積りを正当化しているなら, そのような思考法を経済学者として解明する使命があると感じます.

などと言うのでこの人は大丈夫だろうかと不安を覚えたが, なかなかよく書けていた. ベイス推定, 期待効用水準など 統計の教科書風な話題をわかったような気分になれる. (よた話レベルでだけど.)

なにより面白いのは後半. まず, 経済学的な視点を欠くと中西準子を批判する. たとえばカセイソーダをつくるのに水銀法とイオン交換法を比較してリスクとコストの計算する場合について, そもそもカセイソーダの市場価値を考慮に入れていない, というのが批判の対象になる. つまり, カセイソーダの需要を定数とした上でそのリスク/コストを比較しているが, そもそも(環境の含めた)コストが高いならカセイソーダの需要は減るのではないか, ということ. 中西準子のスタンスを批判するというより, その不備を補足するような議論. 興味深いし, 建設的なかんじ. でも数学的な分析はすごく大変になりそう...

そのほか, 社会の平等や社会資本の市場化に関する議論も(やや道徳的すぎる感はあるものの)面白い."生まれてくる前の, あらゆる偶然が作用する前の状態" = "無知のヴェール" で判断した時に選ぶ良い社会とは何かという話など. 平等は幸福をめざすためのツールであって, それ自身は公理でない.

最近読んだ本 : 希望格差社会 (山田昌弘)

タイトルがうまいので "希望格差社会" という言葉がややオーバーランしているが, 実際にはいくつか論点がある. まずタイトルから連想する "生まれた時点で差がついてしまう" 問題は本題ではない(昔からある). 困るのはそれが正規分布ではなく二極化しているところだ, という. そんな主張を皮切りに実力主義の功罪を議論する.

他には, 学歴が希望のパイプラインになっている という話が面白い. 受験という, 学力による進学先の振り分けは, 競争の参加者にゆるやかで健全な あきらめ を促すという話. そういうのってあるかも. そのパイプラインが壊れていることが現在の問題だと著者はいう. 雇用のありかたが変わったことによって, 高学歴のパイプラインを進んでいったにも関わらず社会に出た時にドロップしてしまうことがある. (大量のオーバドクターがその例.) こういう例が増えてくると社会全体から勉強を頑張ろうという意欲が損なわれて困る, そんな主張.

情報産業に限っていえばちゃんと勉強していて職にあぶれるというケースは少いからいまいちピンとこないが, 工学系でない人々は何か実感があるのだろうな. でも(これも)情報産業に限っていえば, というか自分に限っていえば, 定職が得られたところで幸せな人生について思いあたる節はない. 30-35 歳あたりに次のパイプライン分岐点があって, そのあたりでドロップしそうな予感があるからかな. 一生懸命働いたところでドロップする時はしそうだし, ドロップしないところで働き続けるだけだし.

生れ育ちが良く道を踏み外していない人々はどうぞ幸せな人生を送ってね, と思うのでありました.

最近読んだ本 : 社会生物学の勝利 (ジョン・オルコック)

グールドのような "ブランク・スレート" 勢をはじめとする社会生物学批判にひたすら反論する本. 厚い上に同じような話が何度も出てくるので疲れた. 私から見ると <"自然" なことは "道徳的" なことではない> と言えばもう議論はおしまいなのだけれど, 感情を "自然に" 支配する直感を説き伏せるためには 300 ページを要するのかもしれない.

アジ本につき娯楽度低し.

最近読んだ本 : 数学は科学の女王にして奴隷(I,II) (E.T.ベル)

強烈なレコメンドを受け, 正月休暇の課題図書として読む. 読みものなのだけれど, まず公理がありそこから命題を導くという数学の基本スタイルが通底している. そのスタイルがリズムを生み, 数学は言語だという主張に説得力を与えている. 教科書っぽさもありしんどいが, 構成の良さで読ませる.

1920 年代までの物理学先行の学生は, 電磁場のマックスウェル方程式を, 複雑難解な物理的仮定のいくつかあるなかのひとつから導くことを教えられた. しかし, 1930年ごろ以降, 少なくとも程度の高い講義では, この方程式を公準として述べるようになっている. (...略...) この方程式はまた, これまでに欠かれたこの種の方程式のなかで, もっとも単純な記述でもある. そうすると, この方程式が表わす単純かつ適切な記述を, 人工的な仮定から導くとにこだわって, そのためこの記述をわかりにくくするのは無意味なことではないだろうか.

この一節にはっとする. カミソリが直感的という鎖を断ち切ったとき, ひとは数学の自由を手に入れるのだなあ. 私にはこわくてできないけれど.

I が離散数学, II が解析. 残念ながら II の途中で休暇終了タイムアウト. 仕事をしながら読むにはやや重いです...ごめんなさい勧めてくれた人.

最近読んだ本 : ベルギービールという芸術 (田村巧)

たまにベルギービールの店に行く. いつもモアネット・ブロンドやヒューガルデンばかりでは面白くないから, 少しは銘柄を覚えようと図鑑がわりに買う. 代表的な銘柄がカラー写真つきで紹介さている. その他, 銘柄毎のグラスの形と味の傾向についてや, 分類法など. そこそこ面白い.

これを読んでから二回飲みに行ったけど, どちらも何を飲んだか覚えていない. デジカメの写真はあるのに味が思いだせないし. もう脳が腐ってるんだな, きっと...誰か記憶力のいい人, 飲みにいきましょう. (いま本を眺めていたら, 銀のラベルの "FARO" が甘くて美味しかったのだけは思いだした. )

最近読んだ本 : 見た目診断 (おおたうに)

着ている服や髪型などで女の人を キャリア系, コンサバ系, マダム系など 17 の系に分類し, その系の人の性格やつきあい方についてイラストつきで好き勝手言う本. その徹底した陰口っぷりに笑いながらも戦慄する. その他年代別ファッションなども紹介されていて, こっちは素直に面白い.

まわりにサンプルが少ないので分析の当否は不明. 絵はかわいい.

最近読んだ本 : ロンメル進軍 (リチャード・ブローディンガン, 高橋源一郎 訳)

死につつあるきみが最後に思いうかべるのが

溶けたアイスクリームだとしたら

そうだな

そういうのが人生かもな

フルエル.

原文も載っている. 比べて読んで二度おいしい. 高橋源一郎の独特の訳は, 翻訳というより "日本語化" とでも呼びたい. "映画化" みたいなのりで.

最近読んだ本 : イチゴフェア (伴風花)

歯みがきをしている背中だきしめるあかるい春の充電として

という歌から, あー春だなあ...という気分で恋がはじまり

ルール 7・ケンカ時投げちゃだめなもの→乾電池(とくに単一)

などで悶絶するがやがて

ルール 1・ベランダの花たちの水→水よう…画鋲をゆっくりはずす

ルール 0・絶対言っちゃだめなこと→愛してる(愛してないとき)

...こう幕をとじる. ストーリーがあっていい.

ボールには最も触っていないのに最も汚れているユニフォーム

などステレオタイプに流れすぎて(古典的スポ根マンガの読者にとっては)興醒めな歌もあるものの, おおむね満足な甘口歌集.

最近読んだ本 : ルート225 (藤野千夜)

児童書と Young Adult の違いは, YA には予定調和に従わないという選択ができることかも. 中学生である主人公の鼻持ちならない性格が物語全体を方向づけていて, それがベタな展開が好きな私からすると鼻持ちならない結末に繋がっている. そのへんは面白い.

最近読んだ本 : 月魚 (三浦しをん)

若くてかっこいい古書店員二人を巡る, やおい寸止めの青春物語 "水底の魚" と, 同じ登場人物による短編二編. 短編の方は自作へのサイドストーリーで, 本来の意味でやおい. 古書を巡るディティールがそれらしく, 神保町好きには楽しい.

最近読んだ本 : Checked Baggage

アムステルダム空港で機内持ち込み禁止として没収されたもの l 週間分 3264 点が収録された写真集. 写真集なので読むところはあまりなし. 没収されたものの内訳をみると, 圧倒的にポケットナイフが多い. スイスアーミーは特に多い. 知人曰く, バックパッカーの必須アイテムとのこと. 日本だと傾向が違いそうだが, 具体的に何が多いかは想像できない. 似たようなものかしら.

買うともれなく実際に没収されたものがひとつおまけでついてくる. 私のにはハサミがついてきた. ハサミも多い.

最近見た映画 : メルヴィル・ランデヴー

動きがおもしろい. ディズニーの流派とは明らかに違う動きをする. としよりのヒョコヒョコ感がいいかんじ. 強調の仕方の流儀が違うのかな. わかんないけど. カーチェイスのシーンなんて全然スピード感がなくて, ユーモラスなかんじ. 面白い. CG も割と自然に馴染んでいる.

話は, 孫を悪の組織に連れさられた祖母が海を越え地下に潜入する...というもの. 安心して見られる娯楽映画. 悪人のいる国がアメリカ(みたいな架空の国)というあたりはフランスらしい.

最近見た映画 : トニー滝谷

村上春樹の短編を映画化したもの. 原作が村上春樹というより小説に映像をつけましたというかんじで, ほぼ全編朗読つき. そういうのが嫌いな向きには辛そう. 絵はちょっと面白い. カメラはあまり動かなくて, 場面転換の時だけすすーっと横にパンする. その繰り返しが朗読と相俟って紙芝居みたいに見える.

宮沢りえが(いまだ)美人だったので満足.

最近見た映画 : アイ・ロボット

出張の飛行機内で.

あまりに安直にトラブルしすぎ. エンジニアリングや社会システムを馬鹿にしている. 未来には CMM も独禁法もないのか. こんなんじゃロボットが普及する前に核の事故で人類は滅びているはず. もうちょっと説得力が欲しい...

ロボット同士の肉弾戦シーンは派手で素敵.