2005-06-20

日記 (6/20)

日記八日目. 8 時起床. 二度寝. 10:30 再起床. 欠勤の連絡. 何もする気が起きず, 手近にあった本を開く. しかし英語.

午後, 工事の騒音に耐えかね神保町へ. タカノで昼食, 読書. "キャッチ=22" を少し, "アメリカン・ナルシス" 読了. 前半は古典の話でしんどい. 後半は彼自身の訳したものの話が多く, 私の読書は柴田訳で教化されているため楽しめた. 帰宅後午睡. 起きたら 19 時. 今の 19 時はこんなにあかるいのか. スタージョン "不思議のひと触れ" 少し.

無気力な時は家にいたところで何もできないとわかる. 明日は出社して, 無気力なりに仕事をしなければ. 不十分な人間にとって負の感情は返すあてのない負債のようなものだ. 適当に折合いをつけ, 債務超過を避けるほかない.

12:30 外出, 17:00 帰宅. 昼飯 タカノ(チーズトースト), 間食 タカノ(スコーン), 晩飯サンドイッチ (am/pm).

キャッチ=901

例の 記事 を仮にこう呼ぶことにし, リメイクの案を練ろうと "キャッチ=22" を読み直す. リメイクは難しい気がしてきた. いくつか決定的な違いがある.

一番厄介なのは, 一人称である主人公の "軍曹" が英雄的に扱われている点だ. これだと 下請け=被害者, 上流工程=悪 という対決の構図があらわれ, 話の軸が平凡な悲劇の英雄譚に落ちついてしまう. 2ch.net 的ではあるが, 何も面白くない. "キャッチ=22" がそこに留まらないのは, 文章が三人称で語られ, 主人公のヨッサリアンも(他の登場人物よりマシとはいえ)いくらかの狂気をともなっているからだ. 主人公すらどこかおかしい. 軍規 "キャッチ=22" に象徴される逃れがたい狂気が戦争の不条理を際立てていた. (そういう意味では "キャッチ=901" に登場した, 仕様書を古い版にすりかえるくだりはいい. 狂気が滲む.)

似た問題として, 上流工程の人物描写が乏しいのも惜しい. これも 善/悪 の構図に寄与してしまっている. 理不尽な仕様変更を指示するくだりがもう少し詳細に書きこまれているとよかった. ほかにも途中で上流工程を観察する部分がある. ああいうのはもっとふんだんに盛り込まれていい. ミドルウェアを作った研究所の人間がやってくるあたりは見せ場なのに, 技術的詳細に終始している.

人物描写の少ないのは上流工程の人間に限らない. "キャッチ=22" は非戦闘時の出来事で多くが構成されており, それを通してシステムの歪みを描きだしている. "キャッチ=901" では悪化する事態の記述は "軍曹" の視点を通してのみ語られる. これだと会社員の愚痴のように見えてしまう. (事実そうなのだが.)

しかし一方で, この人間的平坦さと技術的詳細のギャップこそがソフトウェア開発の異様さなのだとも思う. 一日の半分以上を画面に向かって黙々とこなし, あとは帰って寝るだけ. 通勤電車, 夢の中でも脳内デバッグ. 個人として振舞う隙のない, まさに "非人間的" な毎日はデスマーチの典型である. 他人を殺すのが戦争なら, 自分を殺すのがデスマーチだと言える.

リメイクのアイデアとして, "軍曹" が狂っていると仮定して物語を読み替えるのはいいかもしれない. "軍曹" の発言は一部が被害妄想で, 実際の状況がどれほど酷いか読者にはわからない. そうすればはんだごてによるいじめや体罰の部分なども興醒めせずに読めるかもしれない. "軍曹" が技術的に特段優れた能力の持主ではない点も幸いしている. 凄腕のエンジニアが全力を尽したが破れた, という展開だと プロジェクト X みたいな heroic tragedy になってしまう...

などと色々考えていたが行き詰まる. やはり難しい.

"キャッチ=22" は戦争という絶対悪に読者が同意することで物語の骨子が支えられていた. しかし "キャッチ=901" のテーマである携帯電話の開発, あるいはソフトウェアの開発を単純に悪と見做すのは難しい. (少くとも私にとっては.) 下手にやると単なる過労批判になってしまう. しかし, ソフトウェア開発や情報産業がもつ特有の不幸, 困難, 歪みは確かに存在し, それを示さなければ "キャッチ=901" は批評性を持ちえないだろう. そう考えたとき, 私には "笑わないプログラマ" に勝るものを作れそうにない. 欠点もあり, 誇張やフィクションも含まれているだろうが, 当事者のもつ悲哀やリアリティがそこにはある.

そして, 私は当事者ではないし, 当事者になりたくもないのです. 願わくば.

日記 (6/19)

日記七日目. 9 時起床. くっきりとした無気力感. この感覚は初めてだ. "アメリカン・ナルシス" を読むが進まず. しばらく二度寝. 浄水器のフィルタ交換, 日用品買いだし. その後 "Creative Zen Neeon" を求めて近所の家電量販店へ. しかし広告のみで実物なし. Amazon を見たら発売が延期されていた. 二度目だ.

出掛ける気力が起きずなんとなくウェブ. 2ch.net のプログラマ関係記事を集めた blog "笑わないプログラマ" を知る. "携帯電話開発の現状" に目を奪われる. 携帯電話の開発拠点として有名な横須賀の YRP を舞台としたデスマーチの叙述. 偶然にせよ故意にせよ, これは "キャッチ=22" へのオマージュと見てよい. 主人公が自身を "軍曹" と名乗るあたりがそれを暗示している. 同僚以外の人物描写が乏しく, それが惜しい. しかし結果として生まれた閉塞感がかえって生々しくもある. 他にもいくつか読み物として改善の余地あり. しかしこの淡々とした絶望感はすばらしい, リメイク欲たかまる.

重い腰をあげ知人に電話, 下北沢へ. 花茶fe で雑談. 近況など. 呼びつけておいて上の空. 我ながらひどい. 彼はキャバクラ狂いで, その話を聞くのがもっぱら面白い.その料金体系, "同伴", "指名", "ストップ" などの用語解説, ワークフロー, 銀座の "クラブ" をゴールとしたロードマップなど. 自分で行く気は起こらないが, 不思議な世界があるものだと感心はする. 食事をして帰宅.

16:00 外出, 22:00 帰宅. 晩飯 スープカレー "心". 無気力の輪郭薄れず. 明日からの気が重い.